下顎前突出による影響
審美的な問題による自信の低下や心理的ストレスだけでなく、発音が不明瞭になったり(特にサ行・タ行・ラ行)、前歯で食べ物をうまく咀嚼できないことで奥歯に過剰な負担がかかり、歯のすり減りや破折のリスクが高まったり、噛みにくさから、消化器官への負担が増えたり、噛み合わせの不均衡から顎関節症を引き起こすこともあります。
下顎前突(受け口)
下顎前突とは、下顎が上顎よりも前に出ている噛み合わせの状態で、日本人で最も頻度の高い顎変形です。一般的には「受け口」と呼ばれることもあります。正しい噛み合わせでは、上の前歯が下の前歯をわずかに覆うようになっていますが、下顎前突ではこの関係が逆転し、前歯が噛み合わずに下の歯が前に出ているのが特徴です。
見た目の印象としては、しゃくれた横顔や、口元が前に突き出ているように見えることがあり、審美的な悩みを抱える方も少なくありません。また、発音障害や咀嚼(そしゃく:食べ物を噛む)機能の低下など、機能的な問題にもつながることがあります。
審美的な問題による自信の低下や心理的ストレスだけでなく、発音が不明瞭になったり(特にサ行・タ行・ラ行)、前歯で食べ物をうまく咀嚼できないことで奥歯に過剰な負担がかかり、歯のすり減りや破折のリスクが高まったり、噛みにくさから、消化器官への負担が増えたり、噛み合わせの不均衡から顎関節症を引き起こすこともあります。
下顎骨(かがくこつ)は、顔の下半分を形成する大きな骨で、下顎を構成する唯一の骨です。解剖学的に見ると、以下のような特徴と役割があります。
顔面で唯一“動く”骨
下顎骨は、頭蓋骨の中で唯一関節を持ち、上下左右に動くことができる骨です。食事や会話、表情の変化に大きく関与しています。
歯を支える下顎歯槽部を持つ
下顎骨の上部には「歯槽突起(しそうとっき)」があり、下の前歯から奥歯までを支える土台となっています。
左右をつなぐ1つのU字型の骨
下顎骨は生まれたときは左右に分かれていますが、成長とともに中央で癒合し、1つのU字型の骨になります。あご先の「オトガイ部(おとがいぶ)」は顔の輪郭に大きな影響を与えます。
下顎枝と顎関節で
口の開閉を担う
左右の後方には「下顎枝(かがくし)」と呼ばれる垂直な部分があり、その先端には「関節突起(かんせつとっき)」が存在します。この部分が側頭骨と連結して顎関節を形成し、口の開閉や咀嚼運動を可能にしています。
顔の印象や噛み合わせに
大きく関わる
下顎骨の大きさや位置、前後のバランスは、顔立ちや横顔のライン(Eライン)に強く影響します。「下顎前突」や「下顎後退」などの症状では、この骨の成長や形態に問題があることが多く、治療の重要なポイントになります。
歯槽性下顎前突
歯槽性下顎前突とは、下あごの骨自体は正常な位置にあるにもかかわらず、前歯を支える歯槽部(しそうぶ)が前方に傾いていることで、下の前歯が上の前歯より前に出ている状態を指します。このタイプでは、骨格のずれが少ないため、主に歯並びや歯の角度に原因があるとされ、矯正治療のみで改善できるケースが多く、比較的侵襲の少ない治療法で対応可能です。
骨格性下顎前突
骨格性下顎前突とは、下顎骨そのものが過剰に前方へ発達していることで、上下のあごのバランスが崩れ、下の歯やあごが突き出して見える状態をいいます。この場合、歯の傾きだけではなく骨格の位置異常が根本的な原因となっており、外科的矯正手術と歯列矯正の併用治療が必要になることが多くなります。顔貌の改善、正しいかみ合わせの獲得のために、精密な診断と計画が重要です。
SSROは、下顎前突症だけでなく、下顎後退症、開咬症、下顎左右非対称など様々な顎変形症に適応できることから顎矯正手術の中ではもっとも代表的な術式です。下あごの骨を左右で切り分け(2枚おろしの状態)にして、後ろに移動させて正しい位置に戻すことで、噛み合わせや顔のバランスを整えます。SSROの中でも骨切り線の方向などの違いによって様々な変法があり、症状や骨の移動距離によって使い分けます。
手術は口の中から行うため、顔に傷が残らないのが大きな特長です。また、下顎骨移動後の骨と骨の接触面積が広いため、骨同士の癒着が速やかに行われて、後戻りが少なく術後の安定性が高い方法です。後方移動の際にも抜歯は行わないため歯の数が減ることもありません。
ただし、手術部位の骨が薄いと、下顎骨を2枚おろしにする際に、下歯槽神経を損傷して手術後に顎の先端や下唇の感覚が一時的に鈍くなることがあります。この感覚鈍麻はまれに長く続くこともあります。また、えらに手術の既往がある方には実施が難しいことがあります。
手術は全身麻酔下で行われ、通常は1泊入院が必要です。
この手術は、下顎の前方の歯槽部を後方もしくは垂直(上下)方向に移動させる方法です。下顎前歯部の唇側傾斜を伴った下顎前突症や前歯部の開咬症など下顎前歯部の位置異常を呈する顎変形症の方に実施します。
通常は第一小臼歯を抜歯してそれよりも前の骨を歯ごと移動します。
骨を後方へ移動しますが、歯槽部のみの部分的な移動のため、オトガイの突出感(しゃくれ感)が残ることがあります。術前にオトガイ形態を観察したうえで、オトガイ後退手術を同時に行うことが多くあります。
手術は全身麻酔下で行われ、基本的には日帰りで実施可能です。